鍼治療について
鍼治療とは?
健康を保つということは、人間が元々持ち備えている「バランスをとって元に戻る」という能力が正常に働いている状態といえます。これは「ホメオスタシス(生体恒常性)」といわれるものです。
この能力のおかげで、人間は様々なストレスなどで体内のバランスが崩れることがあっても、本人の意思とは関係なく、「バランスをとって元に戻る」ことが可能です。それは特別に身につけるものではなく、生まれながらにして自然と備えている能力といえます。
しかし、現代では、不自然な様々なストレスが強過ぎるせいもあり、こうした「バランスをとって元に戻る」能力が低下し、「元に戻れない」状態となり、それがやがて時間とともに悪化し、疾患として表に現われているように思えます。
病気や体調が崩れるということは、「自然な状態から離れる」ことが原因に思えます。人間は自然な環境に身を置き、自然な食事を摂り、自然に合ったライフスタイルを実践できれば、ホメオスタシスといった本来持ち備えた能力によってバランスを保ち、健康を維持できるのではないでしょうか。
鍼治療は、体と心を「自然な状態に戻す」ことができる治療法です。ぜひ、鍼治療を生活の一部として取り入れていただき、本来の体と心をとり戻していただけたら幸いです。
鍼はなぜ効くのか
体の調節機能とは?
私は、健康を維持できる体とは、体内で自動的に行われている様々な調節機能が無理なく、一定の範囲内で働いてくれる状態のことだと思っています。
人間は気候や気温の変化に常にさらされ、そうした外からのストレスばかりでなく、メンタル的なストレスにも対応しなければなりません。
メンタルといえば精神疾患を思い浮かべますが、それだけではありません。メンタル的なストレスが体に与える影響は、胃潰瘍ができる、といった病的なものもありますが、例えば、心配事を抱えていたりすると、それだけで、血液の性状が酸性に傾く、といったことがあります。
人間の血液の性状で正常とされるのは弱アルカリ性ということで、アルカリ性と酸性のちょうど中間からややアルカリ性よりの状態とされます。これが心配事などがあると酸性に傾きます。酸性というのはいわゆる「ドロドロ血」といわれる状態です。「ドロドロ血」のままでいるわけにはいきませんから、体の調節機能が正常に働けば自動的に弱アルカリ性に戻してくれます。
また、この調節機能は自動的であることが特徴です。例えば、外気が変化すると、寒ければ毛穴が閉まり体温を奪われないように反応したり、暑ければ発汗し、体を冷やして熱を逃がしたりといったことが、本人の意思とは関係なく行われます。
毛穴を開けたり閉めたり、発汗、血圧や心拍数などの調節、消化などが自分の意思でうまく調節できる方はまずいないと思えます。
この調節機能がうまく働いている内は健康を維持できますが、働きが鈍く充分に機能が発揮できない時に、体はさらに強力な機能を発揮し、強い反応を始めます。
風邪を例に挙げると、風邪はウィルスが体内に入り込んだ状態かと思いますが、最初の調節機能として、咳やくしゃみなどの反応が起こり、ウィルスを体内に入れないように努めます。
ここで、ウィルスを食い止めることができれば、健康状態に戻りますが、そこを突破されると、喉が痛くなり喉で炎症を起こし、そこに血液を集めて免疫系の機能を活性化させてウィルスと戦う反応が現れるかと思います。
それでも、ウィルスに勝てないと、体温を上昇させて、さらに免疫系の機能が活性される反応をします。また、体がウィルスと戦うことに専念させるためにも、食欲を低下させたり、嘔吐や下痢などをして消化する作業を休止させるような反応もあります。
この調節機能は力の大小には個人差はあるにせよ、誰もが本来、持ち合わせている機能であると言えます。この調節機能がうまく機能してくれていてれば健康が維持でき、仮にウィルスのように体に入り込んだ状況でも様々な反応をして体を治癒しようとします。
風邪ではなく、慢性的な疾患や症状はどうでしょうか?
慢性的とは長時間続いた弱い刺激が原因となっているものや、とにかく完全に治らず引きずっている状態を指すかと思います。
病名がつくようなものもあれば、それほどではないが、眠りが浅い、体が常に重だるい、精神的にも落ち着かない、など症状としてもはっきりしないものもあります。
このような慢性的な状態も体の調節機能の低下が原因であり、ある意味、大病にならないよう体も頑張って耐えているような状態なのかもしれません。
要は、この体の調節機能が充分に発揮できる状態を取り戻すことができれば、慢性的な疾患にも改善が期待できるのです。
調節機能とは、脳からの指令が神経を通って、各臓器や組織に届き、臓器の働きを調節したり、ホルモンなどの物質を分泌させたりするものです。
私の鍼治療の考えでは、この調節機能が低下するのは、この脳から各臓器や組織までをつなぐ神経に、何らかの障害があることに原因があると考えます。
その調節機能を高め、各臓器がしっかりと機能するには、その神経を障害しているものを取り除き、時には神経を刺激することで、各臓器に目を覚めてもらうことが必要となります。
自律神経の分布と鍼灸のツボとの一致
体の調節機能をつかさどる主な神経を自律神経といいます。
背骨や骨盤には椎間孔や仙骨孔と呼ばれる穴が開いており、その穴から脳から伝わる自律神経が出ていて各臓器などにつながっています。
自律神経は下の図のように各臓器につながっています。
自律神経には交感神経と副交感神経があります。
交感神経は、緊張状態を作り出すような作用があり、副交感神経はリラックス状態を作り出します。
各臓器の働きをコントロールする際もこの交感神経と副交感神経によってなされます。
この自律神経の働きがうまくいかないと、体の調節機能や内臓の働きが低下することになり、その状態が長く続くほど深刻な症状が表に出てくることになります。自律神経の働きが低下していることを自律神経失調症と呼ばれます。
鍼灸のツボの中で、私が重視しているツボは背中から腰部、骨盤部にある背部兪穴(はいぶ ゆけつ)と呼ばれるツボです。
背部兪穴は下の図のように並んでいる中の「~兪(ゆ)」というツボの名前のものです。
下の図の中に、肺兪、心兪、肝兪、胆兪、脾兪、胃兪、三焦兪、腎兪、大腸兪、小腸兪、膀胱兪といったように「臓器名+兪」となるものがあります。「兪(ゆ)」という漢字は「癒」の原型といわれていますから、その臓器を癒すといった意味がツボにあるということです。
その背部兪穴は背骨や骨盤の真ん中から外に5センチぐらいの位置に縦に並んでおり、実際には教科書的には並んでいないことがありますが、目安としては上の図のようになります。
この背部兪穴は、上の自律神経を表す図が示す自律神経の分布とはほぼ似た位置を示しています。自律神経の分布は西洋医学の解剖学の分野ですが、鍼灸の背部兪穴と一致することは興味深いことです。鍼灸の場合、背部兪穴は、鍼灸の長い歴史の中で経験的に確立されてきたといえます。
実際には、例えば、肺の悪い患者さんの場合、肺兪というツボの位置に何かしらの異常が現われるということが起きます。
人体は体全体のバランスを保ちながら健康を維持しているわけですから、肺の悪い患者さんは肺兪にだけ異常があるとは言い切れず、肺兪の異常が腰から連動して現われている場合などもあり、単に肺兪のみ治療すれば良いといったものではありません。
全体を診ながら、背部兪穴の異常を解消することができると、その臓器に関連する症状が消失し、全体のバランスも整っていきます。
鍼がもたらす自律神経系への作用
鍼治療において、患者さんの体にとって、鍼とは金属の異物であり、そうした異物が体内に入ってくることで、体は異物に負けないように反応します。
その際に交感神経が働いて、ある種の緊張状態になり戦闘モードになります。
それに反して、鍼を受けると体が緩んできて血行が良くなり、それがリラックスできる状態につながる現象があります。
患者さんの中には治療中に完全に熟睡してしまう方や熟睡までいかないまでもウトウトと寝ているような起きているな状態の方は多くいらっしゃいます。このように、治療中からリラックス状態、つまり副交感神経が優位に働く状態にもなるのです。
従って、鍼治療には、交感神経と副交感神経が交互に反応するような現象があり、これが結果として、自律神経を整えていく効果となっているといえると思います。
自律神経が整えば、体の調節機能や内臓の働きが活性化され、体は治癒の方向に動き出すと考えられます。
なぜ、鍼治療は痛みや痺れを和らげ、消失できるのか
鍼治療では、痛む個所に鍼をすると、鍼をした所には血液や気が集まり、その血液や気が傷んだ個所に栄養を運び、老廃物を回収するという現象が起きます。これにより、傷ついた個所の修復が早まることで、痛みからも早く解放される、ということが起きます。
また、別の側面としては、以下が言えると思います。
体の浅い所や深い所に硬さがある所に鍼をすることが多く、その硬さのことを「硬結(こうけつ)」と呼び、その「硬結」は、血液や気の流れを阻害し、神経を圧迫し、痛みや痺れの原因となるものとされます。血液や気の流れが滞ると、痛みや痺れの原因以外にも冷えやむくみの原因ともなり、その悪影響は全身に及びます。
私の鍼治療では「硬結」に鍼を当てて、「硬結」の硬さを鍼によって緩めていくことが、最優先される治療の目標となります。この「硬結」を緩めていくことで、それまでの停滞していた血液や気の流れが改善され循環が良くなり、神経の圧迫からも開放され、痛みや痺れの緩和・消失につながります。
この「硬結」に対する鍼治療は、現代では非常に少なくなってきてしまっています。鍼灸師の中でも、ほとんど知られていなかったり、誤解されているのが実状です。
治療方法
実際にはどのように治療するのか
私の鍼治療では、神経を障害しているものがあるところの皮膚面に何らかの異常が現れ、そこをツボとしてとらえ、鍼をしてまいります。
神経を障害しているものは、硬結(こうけつ)と呼ばれる硬さが代表的ですが、瘀血(おけつ)と呼ばれる回収されずに漂っている取り残された血液などが体のいたる所にあります。
硬結は文字通り硬いもので、硬結に鍼を当てて硬結が緩んでくるように鍼を注意深く操作していきます。硬結は体の中の滞りともいえるもので、硬結が緩んで解消されてくると、気血の循環が高まります。
瘀血に鍼が当たると、鍼を抜いた時に、その溜まって漂っていた古い血が外に出てくることがあります。瘀血が体の外に出ききる場合と、皮膚のすぐ下まで上がってきたけど外までは出ききらなかったものとがあり、出ききらないものは内出血のような形になります。内出血の場合は、取り残されていた瘀血が皮膚の近くまで引き上がることで、その後は静脈に入って回収されるので、瘀血が解消されます。
瘀血は直接的に痛みや冷えの原因になっていることが多いです。
ベテランの患者さんは瘀血が出た時にそれを知らせると喜びます。それは、過去に瘀血が出た後に、患者さんご自身の体が楽になったり痛みが取れたりする経験をされているからです。
具体的には、首、背中、腰、骨盤、腹を重視するわけですが、上記のように、神経を障害している硬結に鍼を当てなければなりません。
脳から神経線維が背骨の中を通って、各臓器につながっているので、背骨を中心に硬結がどこにあるのかを探りながら治療を進めていきます。
感覚的なことになりますが、皮膚面には、触っていくと立体地図の山脈のように硬さが連なっていたりします。鍼を打つ場所は、その山脈の最も高まる頂点の中心部となり、その頂点がツボといえます。しかも、その頂点は直径1ミリにも満たないほどでミリ単位でツボをとらえていかなければならず、ツボを決定することには常に厳しく挑まなくてはなりません。
また、慢性病のように長い時間をかけて悪化してきたような場合は、治療にも時間がかかることは想像できることです。
硬結は一度の治療で解消できない場合もありますし、その日、緩んで、崩せたような感触を得たとしても、体の奥から湧き上がってくるかのごとく、何度も硬結に挑んでいかなければならないことも多々あり、時には患者さんも私も粘り強く治療に取り組んでいかなければなりません。
このように硬結や瘀血といった異常を探り当て、解消していくことで、徐々に脳からの指令が各臓器にしっかりと伝わり、体の調節機能が本来の充分に発揮される状態を取り戻すことができると言えます。
また、硬結や瘀血が解消されることで、体の中の滞りが解消され、気血の循環が高まり、たとえ様々な症状があってもご自身の調節機能によって快方に向かえるはずです。
鍼治療は、元々備えている体の調節機能を取り戻していただくきっかけとして大変強力な治療法であると私は信じています。
鍼は何病に効くのか
「鍼は○○病に効きますか?」と聞かれることがよくあります。
私の鍼治療では、硬結や瘀血といった体の中の滞りを解消して循環を改善させることで、気血が巡り、神経の働きが正常になり各臓器が活発に機能することにより、ご自身の調節機能が充分に働くようになります。
そのような健全な体内環境が体や心を回復させ完治させることにつながると考えます。○○病というのは、何らかの原因で健全な体内環境が保てず、その患者さんの弱点に症状や異常が出てきていると考えられ、健全な体内環境作りが完治への基本であると考えます。
確かに、病名や症状は、ある傾向を示すことはあります。例えば、胃の症状がある方は第12胸椎付近に硬結が現われやすい、不眠症の方は第5胸椎付近に硬結が現われる、うつ病の方は第1頸椎~第5胸椎付近と肩部に硬結が現われやすい、といったことです。
このような傾向はほとんどの患者さんに当てはまることではありますが、それだけで済むことは稀で、例えば、腰部や骨盤に異常がみられたり、そのような異常が複雑に絡み合っていることがほとんどです。従って、病名や症状を意識して体を診て、ある傾向を重視することは必要ですが、それに囚われ過ぎて全体が見えないと治療が遠回りなことになってしまうと考えます。
また、患者さんは病名や症状が一つのみということは稀で、細かく聞けば聞くほど症状が溢れ出し、カルテに書き留めるスペースがなくなるほどの方もいらっしゃいます。
ただ、そのような患者さんに対して、特に全ての症状に対して鍼をする、ということをしなくても複数の症状が同時に改善することはよく起こることです。それは、まさに健全な体内環境が実現でき、自然と治癒に向う力が発現されることで、各症状を改善、解消できるといえるのではないでしょうか。
病名や症状を意識しながらも全体のバランスを整え、健全な体内環境を実現できれば、病名や症状といったものは自然と消失していくものと考えます。
治療中に私が意識をしていること
からだ全体を診る
患者さんの訴えに対して、なんとか良くなっていただきたいと想う私の気持ちが強くなり、治療が必死過ぎる時などに、どうしても症状の強い個所や痛む個所に気をとられ過ぎ、からだ全体への意識が薄くなってしまうことがあります。
鍼治療の考え方の基本の一つとして、からだ全体のバランスを常に意識するということがあります。それには、体のパーツにのめり込むのでなく、一歩引いてからだ全体を眺め、良いバランスを取るにはどうしたら良いかを意識しなければなりません。
鍼の響き
この鍼の響きは鍼治療以外では体験できない感覚のように思えます。
鍼が正確にツボをとらえると、じんわりとした感覚が、鍼を打たれているところや手のほう、足のほう、お腹のほう、脇のほう、といった形であったり、目の奥に響く、胃に響く、といった具体的な場所に感覚が走る場合もあります。
これは、神経線維が各臓器や組織につながっていることから起こる現象であり、この響きは鍼が効いている証拠であるとされます。
また、この響き方も人それぞれですし、同じ患者さんでもその日によって響き方が異なります。
そして、この響きは下品なビリビリとした不快なものではなく、マイルドなもので心地良く、いつまでも鍼を打っていて欲しいと思ってもらえるような上品なものであることが理想です。
患者さんの呼吸と鍼の動き
これは、患者さんの呼吸と私の鍼の動きに連動性があり、患者さんの呼吸に合わせて、鍼の動きが潮の満ち引きのように、押しては引いてといった駆け引きが必要だということです。
簡単に言いますと、患者さんが息を吐いている時に鍼を入れていき、吸っている時に鍼を後退させたり抜いたりします。
つまり、鍼が体内に入っている時は、鍼が前進したり後退したりを繰り返して決して止まることなく硬結に到達し、硬結に当たってからも硬結が緩むように鍼を上下に動かしたり、鍼を捻るように半回転させるなど、細かな動きが治療の質を決める要素の一つになります。止まった鍼は死んだ鍼と言われます。
その鍼の動きと患者さんの呼吸を合わせることは、まさに患者さんと息の合った治療と言え、効果の高い治療になると考えています。
もちろん、患者さんはごく普通に呼吸していただいて、それに私が合わせるものあり、患者さんに特別にしていただくことではありません。
心地良い空間を作る
鍼治療を受けられる患者さんにとって、特に初めての方は治療に対する期待と不安があるかと思います。不安感は緊張を生んでしまいます。
患者さんにはできるだけ、リラックスして治療を受けていただくことが大切で、心地良い空間作りを常に心がけています。
以下は、私が空間作りに関して、特に意識していることです。
- 清潔さは当たり前
治療を行う場は衛生的に管理されていることも当然のことですが、患者さんにとって院内が少しでも汚いと感じた時点で、くつろぐことができなくなってしまうのではないでしょうか。
患者さんに不快な想いをさせないためにも、清潔な空間を作ることは常に意識しております。 - 病院っぽさの排除
私もかつては様々な病院やクリニック、治療院に一人の患者として通院していた経験から、いわゆる病院の雰囲気というものが自分を緊張させているように思えてなりませんでした。
そこで、院内はカーテンレールで部屋の中を仕切ったりはせず、私自身の服装も白衣などの医療系のものではなく、院内の雰囲気に合う清潔感のある服装を心がけております。
室内もできるだけ木材、革、ガラス、綿などの自然素材を多用し、部屋の照明などにも気を配り、柔らかく温かみのある色合いを基調としております。 - 患者さんの話に耳を傾ける
患者さんの中には、日常のことや悩み事などの日頃ストレスに感じていることを他人に聞いてもらいたい方が多いように思えます。
患者さんにとって鍼灸師は、患者さんの日常から少し離れた存在でもあり、話をしやすい相手なのかもしれません。
私は気の利いた返しができるわけではありませんが、患者さんの話に耳を傾け、そのことで患者さんの気持ちが楽になったりスッキリしたりすることがあればいいなと思っています。
鍼治療では体も心もスッキリとしていただけたらという想いがあります。
心でする鍼
私の鍼の師匠から最初に指導していただいたことは、「鍼は心でするもの」ということでした。
これは、患者さんに少しでも早く良くなってもらいたい、と想う気持ちが最も大切なことであり、その気持ちがあれば、技術は後からついてくるものだということでした。
鍼治療をおすすめしたい方
一般には、「肩こり腰痛には鍼灸」といった疾患・症状に限られる傾向がありますが、一般に知られるよりも鍼治療の効果は広範囲に及びます。そもそも、患者さんご自身の生命力・治癒力によって病を根治させるわけですから、いかなる病に対しても果敢に挑戦するのが鍼治療であると思います。
その反面、みなさんにとってはある程度の指標といいますか、参考にされたい疾患や症状があると思いますので、私の患者さんに多い疾患名・症状について以下のようにコメントさせていただきます。また、各疾患別の治療のポイントを図で表しました。このポイントは特に重視する所であり、基本としては、どんな患者さんにおいても首~腰部・仙骨部までに異常がないか念入りに確認しながらの治療となります。
特徴として共通しているのは、他の治療法ではなかなかうまくいかず、当院で初めて効果があったと言っていただけることです。
- 疾患名・症状
- 神尾からのコメント
- 不眠症
- 現代人の代表的な症状の一つであり、患者さんは睡眠導入剤で対処しながらも、薬剤の服用を続け、薬剤の効果が薄くなってきたりすることから、今後に不安を持つようになり、薬剤ではない別の解決法がないものかという考えに至って、当院にたどり着く方が多くいらっしゃいます。
不眠症の患者さんの特徴としては、首~肩部、胸椎5番を中心とした肩甲骨内縁に硬さや張りがあり、私が軽く圧すだけで痛がることがあることです。この特徴がない不眠症の患者さんには出会ったことがありません。
そして、この硬さや張りを鍼によって緩めることができれば、眠れるようになります。要は、その硬さや張りがどの程度、根深いもので、それが人それぞれ個人差がありますが、硬さや張りが解消できれば、必ず良い方向に向うということです。不眠症はメンタル的なことも大きな原因ではありますが、そのようなメンタル的なものも含めて、慢性的な様々な体への負担が体の首~肩甲骨内縁に現われていて、それを解消できれば、眠れるようになる、といったシンプルな解決法を鍼は提供できると言えます。
完治までの経過としては、まずは、睡眠導入剤の量を減らしてもなんとなくご本人が大丈夫に思えるようになり、量を半分にし、その後、気がついたら服用する必要がなくなる、といった自然な経過が多いです。
完全に薬剤と縁が切れるようになるのは、週1回の治療で普通は1~2ヶ月はかかる方が多数です。その1~2ヶ月の間で、薬剤の量が減ったり、なんとなく居眠りができるようになったりと変化が出てくるので、患者さんご自身も気持ちが楽になり、治療を継続することに積極的になります。以前は寝る時間になると、寝れないと翌日が大変だから寝なきゃいけない、といった焦る気持ちによって、憂鬱になっていたのが、治療を継続するにしたがって、寝るのが楽しみになってきた、と仰る患者さんもいらっしゃいます。患者さんの中には、3年間、手放せなかった睡眠導入剤と縁が切れた患者さんもいらっしゃいます。
患者さんの多くは鍼治療で不眠症が改善し、解決することに大変驚かれますが、鍼灸師からすると、体に現われた硬さや張りという異常を解消すれば、自然と本来の睡眠を取り戻せることは当然のことなのです。
⇒不眠症の治療例を見てみる
- 不妊症
妊娠時の症状
安産
産後のケア - 生殖器関係は、仙骨という骨盤の中心部の治療に主眼を置くことで、患者さんも驚くほどの良い結果を得られることが多々あります。
また、そのような生殖器関連にのみ着眼するのではなく、食事はおいしく食べれているのか、よく眠れているのか、といったことに問題はないかを患者さんに聞くと、ほとんどの方はなにかしらの不調を抱えていることから、患者さんの基本的な体調を整えることが妊娠しやすい体作りとなり、その結果、ご懐妊に結びつくように思えます。
鍼治療をきっかけとしてご懐妊された方は、妊娠初期~出産直前まで、そして産後も治療を継続され、喜ばれております。
⇒不妊症の治療例を見てみる
- 精神疾患
(躁鬱など) - 私の患者さんの中には精神科に通院されている方も多く、主に薬剤による調整をされているようですが、ご自身が納得できる結果を得るのは難しいようです。
鍼治療では、まずは、ほとんどの精神疾患をお持ちの患者さんの特徴である不眠を改善できるように取り組みます。また、鍼治療の効果として、自律神経の安定が期待できることによって、症状の緩和・改善がみられます。
どんな治療方法でもなかなかはっきりと目に見える効果を判断するのは難しい疾患ではありますが、患者さんご自身がご自分の心体の変化を実感されています。心と体は表裏の関係であり、体を治せば、心にも良い影響が現れるのは間違いないことに思えます。
⇒うつ病の治療例を見てみる
- 頭痛
- 頭痛には様々な原因がありますが、患者さんの多くは、首~肩にかけてや上半身と下半身のバランスといったことに何らかの異常がみられる場合が多いです。
特に首は首の深部に何かがつまってしまっているような方が多く、その「つまり」を鍼によって取り去ると頭痛が軽減、解消されるだけでなく、気持ちまでスッキリとする方が多くいらっしゃいます。
慢性的なものは、体全体の治療により、気血の巡りが改善され、頭痛が解消されることが多々あります。 - 自律神経失調症
不定愁訴
更年期障害など - いずれも、年齢的なことや様々なストレスによって引き起こされる、めまい、のぼせ、倦怠感、疲れやすさ、頭痛、不眠、便秘などの症状を伴います。また、決め手となる治療法に出会うこともなかなかないのではないでしょうか?
治療では、鍼治療がダイレクトに自律神経に作用することから、戦闘モードである交感神経優位な状態の患者さんには、リラックスモードである副交感神経優位の状態を実感していただけることが多くあります。
⇒自律神経失調症の治療例を見てみる
- 腰痛
急性腰痛(ぎっくり腰)
腰椎椎間板ヘルニア
腰椎すべり症
坐骨神経痛など - 私自身も二十歳の頃に椎間板ヘルニアと診断され、強烈な坐骨神経痛を伴い、西洋東洋問わず様々な治療法を試している内に寝たきりの状態にまで悪化した経験があります。腰痛のつらさは嫌というほど経験し、どん底からどのような経過を経て完治できたのかを経験していることが自分の強みに思えます。
腰の疾患も患者さんそれぞれの病の深さの違いは様々ではありますが、鍼治療を通して改善される実感をしていただき、根本治癒をご一緒に目指していきたいです。
⇒腰痛の治療例を見てみる
⇒ぎっくり腰の治療例を見てみる
⇒腰椎椎間板ヘルニアの治療例を見てみる
施術の流れ
当院は埼玉県所沢市の西武新宿線「新所沢駅」から徒歩5分にあるマンションの1階にございます。
マンション入口にはわかりやすくマンション名が書かれておらず、右にあるようにマンション入口にマンション名が記されていますが、ガラスのドアが開いている時間帯では、ガラスのドアに隠れてしまいます。
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マンションの入口には、オートロックはありませんので、そのまま中にお入りください。当院は1階の「105」号室になります。
「105」号室のドアに「鍼灸院神尾」と書かれたプレートがあります。インターホンを鳴らして、呼び出してください。
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問診(もんしん)
初診では、現在の症状やお体の状態、今まで受けた治療のことや今後、患者さんご自身がどのように鍼灸に取り組み、どのような目標をお持ちかなど、ゆっくり丁寧にお伺いさせていただきます。
再診では、前回の施術後のお体の変化などをお聞きしながら、患者さんのご要望に沿うことができているかなどの確認をいたします。
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患者さんの準備・お着替えなど
患者さんには治療室内で、こちらで用意している患者着(背中が開きやすくなっているシャツと短パン)に着替えていただきます。
その間、私は治療室の室外の待合スペースで待機しておりますので、着替えが済んだら、お声をかけていただけたらと思います。
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触診(しょくしん)
必要に応じて、脈やお腹の状態を診ることで、その患者さんのお体の状態のバランスを確認させていただきます。
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刺鍼(ししん)
首、背中、腰を中心に私の手の感覚を第一に、患者さんの皮膚の色合い、質感、起伏などを注意深く診ていくことで、鍼をする穴(ツボ)を特定し、鍼をしてまいります。
その穴によって、適切な鍼の長さ、太さを選び、鍼をする深さ、鍼を留める時間の長さなどを患者さんのお体から鍼を伝わってきた感触に私が鍼を通して反応することを繰り返します。
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触診(しょくしん)
治療の後に、もう一度、脈と腹部の状態を診させていただき、治療が適切なものであったかなどの確認させていただきます。
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患者さんお着替え
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最後に
今回の施術で私が気がついたことなどや今後の施術に関してのお話、次回のご予約の確認などをおこないます。
Q&A
どんな鍼を使用するのか?
私が使う鍼は、鍼作りの職人の方に、私の師匠から受け継いだ鍼の仕様で特別注文で製作していただいています。
素材は、伝統的な鍼の場合、一般的には銀製が多いようですが、銀製は鍼の側面がザラザラしていて、鍼の抜き差しの時に、患者さんは引き連れるような感覚があり、患者さんにとって不快なことがあります。
このステンレス製の鍼は、一般のステンレス製の鍼よりも凄く柔らかく、側面もザラザラとはしておらず、銀とステンレスの良いところをとったような鍼です。また、鍼の先端は一般の鍼よりも丸みがあり、鋭利に刺さらないので、技術は必要ですが患者さんにとっては負担の少ない鍼であるといえます。
長さは、1寸5分(4.5cm)と2寸(6cm)、太さは1番〜10番となり、直径0.16mm〜0.34mmとなります。太さは主に使うのは直径0.2mm前後のものであり、ヒトの髪の毛の直径が0.16mmぐらいと言われているので大きな差はありません。ちなみに、皮下注射用の針の直径は、0.5mmと言われていますので鍼治療の鍼の太さの倍以上の太さと言えると思います。
特注の鍼ですので、一回の使用で廃棄することはありません。使用した鍼は、その患者さん専用の鍼として保管し、決して他の患者さんに使用することはありません。使用前、使用後には消毒をいたします。鍼の耐久性は使用頻度とその患者さんの硬結の状態によって消耗度合いが異なりますが、治療前後に消毒を行いながら鍼のチェックを行い、必要であれば新品のものと交換しています。
灸はしないのか?
私の流派では、灸はあくまでも補助的なものであるとされ、灸は軽い表面の病に対してするもので、重い病には鍼でなければ治せないとされています。
私は灸を使って治療してみた時期もありましたが、効果がはっきりとはせず、灸に費やす時間があれば、鍼に時間をかけたほうが効果が高いと判断しています。
治療院名を「鍼 神尾」としているのも鍼の奥深い世界を追求し、鍼一本一本に心を込めたい気持を表しました。
もちろん、患者さんご自身で灸をご自宅でされることは大いに結構なことだと思います。
鍼治療を受けて、痛かったり、出血することはないのか?
鍼治療を受けたことのない方にとっては、鍼状のものとしては、裁縫の針や注射針、歯科医院の麻酔の針などをイメージされることが多いかと思います。確かに、そのような針は痛いし、出血することが多いし、良いイメージはないかと思います。
鍼治療の鍼の場合、上記の針の痛みとは異なり、痛みと気持ち良いの間の感覚という言い方ができるかと思います。ただ、この痛みというのは、針の痛みとは異なり、効いている感覚というか、鍼独特の響いている感覚といえると思います。
傾向としては、体の状態が悪い方ほど、響き方がキツめにでることがあり、体の状態が良い方ほど気持ち良く感じるように思えます。ただ、響きがキツく感じる方でも、治療を続けていく内にキツさがなくなってきて、気持ち良いよりの感覚に変化してくることがほとんどです。鍼の気持ち良さは独特で、鍼でしか味わえないもので、何時間でもやっていてほしい、という方もいらっしゃいます。
鍼をして出血が起きることはほとんどありません。あるとすると、体内に澱んでいる汚れた血液である瘀血(おけつ)に鍼が当たって、それが体外に出る時です。瘀血を体外に出すことは治療の一つの目標であり、瘀血を出すことで体の中の滞りを解消することにつながるわけですから、瘀血を出し切ることはとても良いことです。その時に痛みは特にありません。
いわゆる、包丁で指先を切ったような場合というのは、血管を切ってしまい血管の中の血液が体外に出ている状態です。鍼の瘀血は血管の外に漂う何らかの原因で静脈に入って回収されない血液です。違いとしては、血管の中の血液と血管の外で漂う血液といえます。従って、指先を包丁で切ると傷が深いほどなかなか出血が止まりませんが、鍼の瘀血の出血はごく少量で、すぐに止まります。
注射の針と鍼灸の鍼の違いは、用いる漢字も異なりますが、注射の針は中に薬剤という液体が通りますので、鍼灸の鍼とは太さが全く異なります。それと、鍼の先が鍼灸の鍼は丸みがあり、鍼の先が血管に当たったとしても血管に刺りにくく、血管が鍼を避けてくれるといわれています。注射針は静脈を破って薬剤を血流に乗せなければならないので、注射針の針の先は非常に鋭利に尖っています。
そもそも、鍼治療には数千年の歴史がありますが、鍼治療で鍼をする度に、いちいち痛いだけで出血していたり、といったことであれば、数千年の内に民衆から支持されず消滅されていたのではないでしょうか。
コラム記事
鍼灸の鍼と注射針の違い
治療期間について
鍼治療をどのぐらいの期間をかけて、治療に取り組んでいけばよいか、についてです。
特に初めて鍼治療を受ける患者さんとしては、「何回通えば治りますか?」と聞きたくなる心情はよくわかります。
答えにはならないかもしれませんが、それは治療を進めていくに従って、つかめてくることであり、患者さんご自身にも感覚的にわかってくることかと思います。
治療を始める前に、「○回で治ります。」「全治○週間です。」といったことは鍼治療の場合、言いきることはできません。なぜなら、単に症状がなくなるといったことだけでなく、本当の意味での根本の治癒を実現するには、患者さんの体質などにより個人差が大きくあるからです。治療に要する時間は、患者さんの心身のダメージの深さによっても異なるのだと思います。
また、長い期間かけて形作られた疾患を快方に向かわせるには、それなりの時間が必要となります。病気治し、体調を整えるということは、患者さんご自身の持つ生命力、治癒力によって体は快方に向かうという考えが、鍼治療の根底にあります。鍼治療はそのためのきっかけであり、それは強力なきっかけとなりえる可能性を秘めていると思います。鍼治療は血液循環、気の流れ、神経の流れといった体内の様々な循環を活発にすることで、結果、患者さんご自身の持つ生命力、治癒力を高め、病を必要としない体に変えていくことが目標となります。そう考えても、患者さんご自身の体内の環境が整い、循環が高まり、治癒力が発揮され、問題が解決されるまでには、時間がどうしても必要であるといえます。
もちろん、治療させていただく私としては、患者さんには一日も早く良くなっていただきたいという想いで治療させたいだきます。例えば、1年かけて悪くしたものを1年かけて完治させる、というのでは、治療の腕がある、とはいえないと思いますが、この1年をいかに短期間にできるかが鍼灸師としての実力が問われることになります。
また、例えば、鍼治療を始めてから3ヶ月で完治した場合、初診から3ヶ月経った時に、突然完治する、といったことではありません。その3ヶ月の間に、様々な変化があり、症状の出かたにも波があったり、体の状態も上下を繰り返しながらも、患者さんご自身が体が整い、症状がとれてくる感覚を実感することができます。
治療間隔(頻度)について
治療間隔ということを考えるにあたっては、鍼治療開始時は最低週に1回をおすすめしています。
鍼治療は治療を受けた直後から効果を感じていただけることが多いですが、鍼治療直後から体が変化し、それが治まるのが3日後~1週間とされます。2回目の治療は3日後~1週間後となります。従って、週に1~2回からスタートとなります。基本は週1回からはじめ、週2回の方はご本人が週2回を希望されることが多く、体がそう要求しているようにみえます。
患者さんの様子をみていて言えることは、治療期間がある程度かかったとしても、週1回以上で継続されている患者さんは、体に変化が出てきて、それが積み重なって、患者さんご本人もそれを実感しながら、治療に取り組んでいかれている方が多いということです。
治療スタート時から、隔週に1回、1ヶ月に1回、といった患者さんの場合、治療効果を積み重ねていくことができないため、毎回が初診時とほぼ同じ状態に戻ってしまい、なかなか完治に向う階段を駆け上がっていくことができません。患者さんご本人は、鍼を受けると体が軽くなり、楽になったりとするので、隔週に1回でも月に1回でも鍼治療を希望されるのかもしれませんが、そのペースですと、なかなか結果を出すことは難しいです。
治療を続けていく内に、体調に変化が現れ、症状に改善がみられていきますが、右肩上がりに一直線で完治まで辿りつけることはまずありません。
体の状態には波があり、その波の上下が段々と全体的には上昇していくというのが、体の治り方だと思います。波が下がった時に、患者さんは鍼治療を続けているのに、なぜ体調の波が下がってしまうのだろう、と悩まれる方がいらっしゃいますが、下がることも次に上昇するために必要な過程であるといえます。
ある程度のスパンで、上昇しているかどうかを判断されたほうが良いと思います。
こうして、体の状態の波の上下を繰り返しながら、治療の間隔も様子をみながら調節していきます。
治療開始時の週1回以上の治療から、体の状態が上昇し、訴えていた症状がとれて来たタイミングで、隔週、3週間に1回、月に1回といったように治療間隔を空けていきます。
その過程においても、治療間隔を空けたことで、体調が下がるようでしたら、週1回に戻し、また様子をみるといったことも必要ですので、注意深く治療間隔を調節することも大切です。
最終的には、体のメンテナンスを兼ねて月に1回は鍼を受けておく、といった患者さんが多いように思えます。
鍼灸はどこの鍼灸院でも同じ治療方法なのか?
鍼灸には流派があり、その数は数え切れないほどあります。また、同じ流派でも各鍼灸師によって治療方法には違いがあるといえます。
鍼灸は東洋医学の一つの治療法ですが、東洋医学は東洋哲学がベースとなっている医学です。全体を診る、バランスをとるといった東洋医学の基本的な考え方は東洋哲学に基づいています。その点では、どの流派にも共通しています。
しかし、実際の治療方法は、鍼しか用いない場合もあれば、灸しか用いない流派もありますし、体の深部を重視するやり方もあれば、体の皮膚面を重視するようなやり方もあります。また、同じ流派でも各鍼灸師の経験や感覚などに差異があるために、治療効果はその鍼灸師個人の能力に大きく左右されると思います。
登山に例えると、目指す山の頂上は一緒でもその登るルートや登り方が異なるといったことがいえるかと思います。